夏目漱石の小説に登場する北海道

北海道にいる父から三千代へあてたものであった。三千代は状袋の中から長い手紙を出して、代助に見せた。
 手紙には向うの思わしくない事や、物価の高くてくらしにくい事や、親類も縁者もなくて心細い事や、東京の方へ出たいが都合はつくまいかと云う事や、――凡てあわれな事ばかり書いてあった。

 

三千代の父はかつて多少の財産と称えらるべき田畠の所有者であった。日露戦争の当時、人の勧めに応じて、株に手を出してまったくやり損なってから、潔く祖先の地を売り払って、北海道へ渡ったのである。

夏目漱石『それから』 

 

女についてできたとか切れたとかいう逸話以外に、彼はまたさまざまな冒険譚の主人公であった。まだ海豹島へ行って膃肭臍おっとせいは打っていないようであるが、北海道のどこかでってけた事はたしかであるらしい。

 

森本の呑気生活というのは、今から十五六年彼が技手に雇われて、北海道の内地を測量して歩いた時の話であった。

夏目漱石彼岸過迄

 

「馬も存外安いもんですな。北海道へ行きますと、一頭五六円で立派なのが手にります」

夏目漱石『明暗』